【実に恐ろしきは6】





「華苑!お前、いつの間に?!」
 ようやく稽古を終えた春哉は数馬の隣に座る華苑の姿に驚いた。夢丸は後片付けに追われているようでこちらには注意を払っていない。
「どうも〜。春哉さんってば全然気付いてくれないんですもん、悲しかったですよ〜」
 春哉や夢丸のような陰間しか知らなかった数馬は、華苑のそのつかみ所のない性格に新鮮さを感じていた。よくいえば自然体、悪く言えば風情がない……そんなところか。個人的には好感を持っているのだが。
「薄情ですよね〜。昔はあんなに可愛がって下さったっていうのに。真木様もそう思いません?」
 唇を尖らせて数馬の腕に抱きついた華苑。春哉はその光景を苛立ちつつも見つめていた。
「お前、相変わらずだな……。とにかくまずは数馬さんから離れろ!」
 数馬から華苑を引き剥がす。それでもにこにこと真意のつかめない表情をする華苑。軽く頭痛を覚えた春哉は、旧友の顔を見下ろしたまま問うた。

「お前、客は?こんなところで油を売っている暇はないだろう?」
「だってその客が居ないんですから仕方ないでしょう?だからといって一人でヌくほど溜まってませんし」
「……下品だ。口を慎め、華苑」

 どうやら華苑は普通の陰間ではないようだ。一癖も二癖もあるこの陰間に果たして客がついているのだろうか?春哉が稽古をつけていたときに話していた華苑があの調子で客を取っていたとするならば納得できるのだが。
「数馬さん、すみません。こいつはこういう男なんです。風情のふの字も理解しない男で……とにかく今日は帰りましょう」
「あ、ああ」
 数馬の手を引き、立ち去ろうとする。
「真木様、また明日」
 満面の笑みでひらひらと手を振る華苑をキッと睨みつけた春哉は、奥から夢丸が「明日もよろしくお願いします」と挨拶する声をさして気に留めることなく、部屋から出て行った。


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